大久保賢一@畿央大学のブログです。特別支援教育、応用行動分析学(ABA)、日々のつぶやき等。
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先週に引き続き、インクルーシブ教育ネタです。

「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」(特・特委員会報告)に対する鋭い論説と提案がなされている書籍を読んだので、私が特に重要だと思った点についてメモを残しておきたいと思います。


インクルーシブ教育への提言―特別支援教育の革新インクルーシブ教育への提言―特別支援教育の革新
(2012/09/26)
清水 貞夫

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清水氏は、まず、外務省が“general education system”を「教育制度一般」と訳したことを「中学生でも気づく決定的な誤訳」を指摘されています(p32)。

その背景について清水氏は「文科省の意向を強く意識して誤訳した」と考察されています。

これは、“general education system”をごく自然に「通常の教育システム」と訳してしまえば、後述するように現行の特別支援学校のシステムと障害者権利条約の内容との整合性が取れなくなってしまうことが懸念されたということでしょう。


しかし、このように「言い回し」を変えたとしても、清水氏は「所轄の行政官庁が別であることから、特別支援学校は『通常/一般教育システム』から分立したシステム(P34)」であると指摘しており、

『分離別学』とはならない特別支援学校の法制度に改革する必要性(P35)」があることを主張されています。

障害者権利条約の第24条第2項(b)には「障害者が、他の者と平等に、自己の生活する地域社会において、包容され、質が高く、かつ、無償の初等教育の機会及び中等教育の機会を与えられること」とあるのですが、この「自己の生活する地域社会において」という箇所に、現行の特別支援学校のシステムが抵触してしまうという指摘です。

この問題に対して清水氏は「学校教育法第80条を改訂して、特別支援学校の設置義務者を都道府県から市町村に漸進的に一元化して、地域密着型の小規模な特別支援学校を適正配置させること以外にない(p29)」と大変興味深い提案をされています。

(このアイデアについては、また別の記事で取り上げたいと思います)


また、清水氏は「特・特委員会報告」について、「インクルーシブ教育の理念と方向性に賛成を明記した意義は正当に評価されるべきである(p4)」としながらも・・・

〇「就学については何一つ新しいことを提案していない」(p84)

〇「合理的配慮と差別禁止はコインと裏と表の関係にある(p100)」にも関わらず「学校ないし教育における障害差別をまったく扱っていない。障害差別を議論していない(p107)」

〇「義務教育レベルの教育とその終了以後の専門学校、大学、社会教育機関での教育とを区別していない(p117」

という鋭い批判を行っています。

確かに就学については、「実際的には今とどこが変わるのだろう?」と疑問に思える内容ではありますし、特に「何が教育における差別になるのか?」ということについては、「何が合理的配慮なのか?」というトピックとともに、さらに議論が尽くされなければならないでしょう。


さらに清水氏は「合理的配慮」について、「義務教育レベルの教育においては『合理的配慮』という支援サポートは、概念として原則的には存在しない(p108)」というこれまた大変興味深い解釈を提示されています。

それは「障害のある児童生徒に適切な教育を保証するという法令上の義務が既に存在する」ということであり、わざわざ「合理的配慮」なんていうこと言わなくても、必要な支援が提供されることは「当たり前の了解事項」じゃないか、ということです。
(ただし、学校教育法における「障害のある児童生徒」に含まれない「広義の“障害児”」に対しては「合理的配慮」という概念が成立するとあります)


そして、このような「合理的配慮の概念に関する混同」によって、「『当然の権利として保障される適切な教育の中身』が『心配りとしての配慮』という慈恵措置に転換されかねない(p117)」という危険性が指摘されています。



この本を読んだ感想として・・・「障害者権利条約への批准」に向けては、「特・特委員会報告」の内容にやはり+αが必要であると思いました。

特に清水氏が指摘した「特別支援学校の設置義務が都道府県にある」という問題、そして、この本の中で繰り返し述べられている「インクルーシブ教育の実現は通常教育の改革」という課題については、さらに議論を深め、具体的な方略について検討していく必要があると思います。


【2012/12/10 22:57】 | 教育問題
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