大久保賢一@畿央大学のブログです。特別支援教育、応用行動分析学(ABA)、日々のつぶやき等。
前回の記事で取り上げた「障害者権利条約とインクルーシブ教育」、そして「特別支援教育のシステム」に関連して、今回の記事では特に「特別支援学校を市町村立にするというアイデア」について取り上げたいと思います。
前回の記事でも引用した清水貞夫先生の特別支援教育改革論ですが、この「市町村立化」のアイデアも清水論によるものです。


日本型インクルーシブ教育システムへの道―中教審報告のインパクト日本型インクルーシブ教育システムへの道―中教審報告のインパクト
(2012/10)
渡部 昭男

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以下、この本の「第2章 特別支援学校の設置義務を市町村へ」(清水,2012)から要点を抜粋してまとめようと思います。

まず、指摘されている問題は、
「インクルーシブ教育報告」は「連続性のある多様な学びの場」を強調するあまり、障害者権利条約第24条2の(b)障害者が、他の者と平等に、自己の生活する地域社会において、包容され、質が高く、かつ、無償の初等教育の機会及び中等教育の機会を与えられることを軽視しすぎている、ということです。

つまり、特別支援学校は、都道府県立であるが故に、本来身近なところで行われるべき義務教育段階で、「分離主義的な広域の障害児教育の場」になってしまっており、この実態が権利条約の内容に抵触するという指摘です。

清水氏も指摘されているように、なぜ特別支援学校に籍を置く子どもたちだけが、遠く離れた学校に長時間バスに揺られて通わなければならないのか、なぜ彼らだけが親元を離れて寄宿舎生活を余儀なくされるのか・・・

障害者権利条約に批准するということは、「誰もが『自分が生活する場』で学べる」ということを「当然の権利」であると見なすことなのです。

また、広域から児童生徒を集めた結果、特に知的障害の特別支援学校はマンモス校化が進んでおり、劣悪な学習環境は未だ十分に改善されてはいません。

ここで提案されるのが「障害の有無や程度に関わらず、原則、在籍(学ぶ場も)を通常学級にする」ということなのですが・・・

しかし、このような「ラディカルなフルインクルージョン」を推進すれば、例えば全く授業の内容についていけない児童生徒や、医療的ケアを必要とする児童生徒などに対して適切な教育が保障されない可能性が、やはりどうしても出てくると思います。
また、教育課程の問題が大きな壁になるでしょう(通常教育においては、学習指導要領で学ぶべき内容が一律に定められているためです)。

そこで、「都道府県立特別支援学校を市町村立特別支援学校に転換し、小規模・分散化を図る」というアイデアなのです。

特別支援学校を市町村立に変えれば、何が変わるのでしょうか?どのようなことが期待されるのでしょうか?

まずは、障害者権利条約第24条2の(b)における「自己の生活する地域社会において」という箇所に抵触することがなくなります。

また、清水(2012)においては、他にも以下のような利点があると主張されています。

・特別支援学校が地域コミュニティを持てるようになる
・児童生徒が地域資源を利用する際の一貫性を保てるようになる(公的機関、コンビニ、図書館、レクリエーション施設など)
・特別支援学校のセンター的機能が充実する
・特別支援学校が同一エリアの複数の幼稚園・小・中・高校と地域資源(教材教具や看護師、ソーシャルワーカー、言語聴覚士などの人的資源)を共有できる
・交流教育・共同学習が推進される


これらのことが実現されれば、各地域コミュニティごとに「連続性のある多様な学びの場」が作られることになり、現在の特別支援教育が抱えるいくつかの問題がかなり軽減されるのではないかと思われます。


しかし、このようなことは実現可能なのでしょうか?

下の表は平成23年度「特別支援教育資料」のデータです。

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データを見ればわかるように、実は既に13%の特別支援学校は市町村立なのです!

また、清水(2012)によれば、「全学級が特別支援学級である小中学校」がなんと25校存在しているというのです(当然、これらの「学校名」は通常学校名です)。

ざっと探してみたところ「千歳市立北進小学校・千歳市立北進中学校」や「金沢市立中央小学校芳斎分校」といった学校が見つかりました。

これは「市町村立の特別支援学校」という発想に極めて近い学校であるといえるでしょう。

また、特別支援学校が通常の小中学校と同一敷地内・校舎内で一体となっている学校が既にあります(例えば、群馬大学附属特別支援学校など)。

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このような特別支援学校の設置の仕方は、インクルージョンを進めていくための具体的な方法の1つといえるでしょう。

といったように、現行の制度の範囲内においても、やろうと思えばかなりのことができるのです

ただし清水(2012)は、特別支援学校の設置者を市町村に移行するために、具体的には、学校教育法第80条「都道府県は、・・・特別支援学校を設置しなければならない」を「市町村は、・・・特別支援学校を設置しなければならない。だたし、町村においては地方公共団体の組合に特別支援学校の設置を委ねることができる」と改訂することが必要であると述べています。

そして、全ての子どもが通常学校に在籍して、必要に応じて特別支援学校に「副籍」ないし「支援籍」を持つという形が望ましいとしています。

以上のように、「障害者権利条約への批准」の問題と「特別支援教育のあり方」について、今回は「特別支援学校の設置義務をどこが負うのか」という点に焦点を当てて考えてきました。

残念ながら「障がい者制度改革推進会議」と「特特委員会」の議論においても、このトピックについてはほとんど扱われていないように思われます。

今後、障害者権利条約への批准に向けて、最終的なすり合わせが行われるはずです。
その際、「予算の問題」が障壁になることは予測されますが、是非ともこの清水氏のアイデアについても検討されるべきであると思います。


【2012/12/22 13:19】 | 教育問題
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井上雅彦
確か兵庫県三田市では支援学校の代わりに特別支援学級の一つを拠点校にしてセンター的機能を持たせていましたたよ。


大久保賢一
井上先生
情報提供ありがとうございます。
調べてみたいと思います。

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